私はトイプードルの男の子を実家で飼っていました。

その愛犬が10歳になる少し前に動物病院での定期健診で心臓に雑音があると告げられました。
後日、心臓のエコーとレントゲンの検査が行われました。結果、憎帽弁閉鎖不全症という病気でした。
憎帽弁閉鎖不全症とは心臓にある憎帽弁がうまく閉じなくなることにより血液が逆流し、心肥大、肺水腫(肺に水が溜まる)のような症状が出てくる病気です。わりと小型犬に発症しやすい病気です。

この日から投薬治療が始まりました。また、こちらの病気は手術をしない限り完治することはないそうです。
手術といっても膨大な治療費がかかり、リスクもあるため手術を選ばれる飼い主はごくわずかだそうです。
私たち家族は通院と投薬という治療を選びました。
この病気の一番の特徴的な症状が咳です。病名を告知された時はなかった咳が数か月後少しずつ増えてくるようになり、毎月の通院でのレントゲンでも肺に水が溜まっているのが見て分かるようになりました。
この時から心臓の薬に加えて肺から水を抜くための利尿剤も服用されることになりました。

治療の他に飼い主として気を付けていたのは愛犬を興奮させないことです。心拍数が増えると心臓に負担がかかるため、獣医さんからの助言のもと散歩の距離を減らす、走らせない、吠えさせないなどの対策を行いました。

そして11歳になった時から病状が悪化し、怒涛の日々が始まりました。

夜間に咳が止まらなくなり、呼吸数が早まりいわゆる発作が起こったのです。もちろん私たち家族は徹夜をし、朝一にいつもの動物病院に駆け込み、利尿剤の注射を打ち酸素室に入れていただくなどの処置をしてもらいました。
この時は幸いにも肺の水も減り元気に帰ってくることができました。

初めての発作から3か月に1回ほど発作が起きるようになり夜間の救急に車を走らせることもありました。
保険に入っていなかったため夜間診療と4日間ほどの入院で10万円ほどかかったかと思います。

通院も1週間に1回になり、利尿剤も限界の量を飲んでいても水が減らないような状況になり、最後には自宅用の酸素室もレンタルし、愛犬中心の生活になりました。
酸素室については警戒してなかなか入ってもらえず、チューブを鼻の前に置くなどしましたが役に立っていたか未だに分かりません。飼い主のお守りのような物だったように思います。

最期は前日の夜に苦しそうだったので病院に行きましたが何もできることはなかったので、入院はさせず私の横で一夜を過ごしました。朝方苦しそうにして息を引き取りました。
前日に獣医さんから聞いていたのは、この病気は最期は苦しむけど見ていることしかできないということでした。
本当にその通りで、何もできない自分がもどかしく、悲しくて味わったことのない感情でした。

正直、亡くなるまでの1年はどこに行っても何をしてても愛犬のことが気がかりで辛い毎日でした。
常にペットロスへの恐怖がつきまとっていたのを覚えています。こんなにかわいくて仕方のない愛犬がいなくなったら私はどうなってしまうのかと…。
しかし同じように愛犬を亡くした友人に言われたのは「いい1年だったね、そんなに愛犬のことばかり考えてたくさん一緒にいれてよかったね。」でした。私はこの言葉にとても救われました。

たくさん病院に連れていって、たくさん薬を飲ませてしまったことは愛犬を苦痛にさせてしまったかもしれませんが私たち家族は少しでも長く生きてもらうために全力でやり切ったと後悔はしていません。
この病気は本当に飼い主も辛いです。愛犬が苦しそうにしているのが目に見えて分かるからです。

だからといってせっかく一緒にいられる限られた日々を悲しい気持ちで過ごすのはあまりにももったいないです。
私はなかなかできませんでしたが楽しく笑顔で過ごすことが大切かと思います。
ペットは偉大です。家族です。病気になっても怯えずできる限りのことをすれば乗り越えていけるはずです。